スプツニ子!による「豊島八百万ラボ」とは?
瀬戸内国際芸術祭2016の春会期が始まる3月20日、スプツニ子!による「豊島
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの助教で、現代社会における問題を直接的に反映させた作品を制作しているアーティスト・スプツニ子!。ここのところ、私たちもiPS細胞や、ゲノム編集という言葉を耳にするようになりましたが、彼女はMITに通うようになってからバイオテクノロジーが急速に発展していることを見聞きし、これまで神話の世界のことだと思われていたような新しい生き物や現象が、現実化されようとしていると強く感じたといいます。歴史的には神話に疑問を投げかけることもあった科学が、これからは神話を生み出していくこともあるのではないか――。
一方で、あらゆるものに神が宿ると考え、多様な神の存在に寛容な
このコンセプトにもとづく作品が、今後定期的に企画展示されていきますが、まず今回はスプツニ子!自身がこけら落としとして新作を展示します。タイトルは「運命の赤い糸をつむぐ蚕 - たまきの恋」。好きな人にその気持ちを伝えることができない不器用な理系女子の主人公が、自ら研究する遺伝子組み換え蚕によって「運命の赤い糸」をつくりだそうとする映像作品を中心に、インスタレーションが展開されます。
作品の制作は3月20日のオープンに向けて佳境を迎えつつあります。1月には、雪の残る東京郊外で映像作品の撮影が行われました。クライマックスとなるシーンに協力してもらうためにスプツニ子!自身がtwitterで多くのエキストラの参加を呼びかけ、寒い中にもかかわらず、100人もの方が集合。作品が展示される豊島からも3人の方をお招きし、ご出演いただきました。多くの方が一斉に走っている理由は?作品の完成をご期待ください。
一方で、今回の作品制作と並行してスプツニ子!が共同研究を行っていた、農業生物資源研究所からも嬉しいニュースが。人が恋におちる成分とも言われているオキシトシンと、赤く光る珊瑚の遺伝子を導入した蚕から「運命の赤い糸」が誕生したとのこと。アーティストの妄想と最先端の生物工学によって、神話の世界が少しだけ現実になったと言えるのかもしれません。
現代の複雑な問題に対し、多くの方に伝わりやすい手法でポップに表現するスプツニ子!。その活動の根本には、資本主義や政治的なプロセスの中で、議論が熟さないまま物事が決められていく社会に対しての大きな疑問が存在しています。
豊かな自然に恵まれた島の小さな集落で産声をあげる、「豊島八百万ラボ」。彼女の思考を体現するかのように、急速に変化する社会において私たちが未来をどうデザインしていくのか、問いを発し続ける場となることでしょう。
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