作品に息づく犬島の日常―
淺井裕介《太古の声を聴くように、昨日の声を聴く》
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は、犬島「家プロジェクト」の"石職人の家跡"で公開されている淺井裕介《太古の声を聴くように、昨日の声を聴く》(2013-2016年)について紹介します。
《太古の声を聴くように、昨日の声を聴く》は、かつて花崗岩の産地として採石業で隆盛を極めた犬島の集落内で、当時すでに空き地となっていた石職人の家の跡地に制作されました。舗装道路の白線に使用される溶着性の白いゴム素材を、ガスバーナーで地面に焼き付ける手法で、様々な動植物や船などが描かれています。2013年に行われた第2回瀬戸内国際芸術祭で初めて公開されました。
作家・淺井裕介氏は2013年の2月頃から1カ月以上犬島に滞在して現地制作を行いました。淺井氏は作品が犬島の集落内に置かれることを考慮して、犬島の風景や生活に溶け込み、島の方々が日常生活の延長線上で目にするような作品にしようと考えました。そのため、制作中は犬島の人との触れ合いを意識したそうです。
制作は屋根や壁のない屋外環境で半公開的に進められました。制作の過程では島の方々を対象に作品の一部をつくるワークショップを行い、淺井氏が用意した溶着性のゴム素材に島の方々が好きな図柄を描きました。
淺井氏自身は、犬島に実在する人やものがモチーフの図柄をところどころに描きました。船、灯篭、神社の瓦の模様、島民の飼い犬など、島の方々が日々目にする犬島の風景を作品の中に取り込んだのです。
島の方々と淺井氏は日常的にも交流しており、毎日のように島の方々が食べ物を差し入れたり、自宅に招いたりしていました。その際、昔の犬島の様子や、今回の作品制作の話を交わしたそうです。ワークショップ終了後は島の方々が制作現場に訪れ、淺井氏の作業を度々手伝いました。こうした様子からは、滞在制作を通して淺井氏自身が犬島の風景に溶け込んでいったことが窺えます。
淺井氏にとって犬島での生活は、作品の敷地内だけでなく島全体が制作現場になっていく感覚をもたらしました。同時に、島の方々にとっても作品を身近に感じ、犬島へ訪れる人々に対して作品について積極的に語る動機になりました。島の方々に受け入れられ、より深く犬島の土地に根差した作品が実現したと言えます。
現在、《太古の声を聴くように、昨日の声を聴く》は当初の敷地内から飛び出して拡張し、《sprouting01》と題して島内の路地にも展開されています。犬島を訪れた際には、ぜひ島内を散策しながら作品を見つけてみてください。
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